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企業研究所はどうすれば機能するか(2)

※本稿は企業研究所はどうすれば機能するか(1)の続きです。

この合同研究所構想には種本もモデルとなるような海外の研究所も存在しない(似た構想があれば教えてほしい)が、実在の研究機関としてはスピンオフした企業群の中央研究所だった戦前の理化学研究所が近い。(戦前の理研については次のリンク先を参照のこと。 http://manabow.com/pioneer/riken/5.html) 運営の方法は、情報処理推進機構の未踏ソフトウェア創造事業に近いが、もっと必要な人材を揃えて組織立てて進めようという構想である。

1.基本方針

基本的に、実現まで10年以上かかりそうな未来商品・サービスのコンセプトの実現を目指すグループからなる研究所である。ただし、活動資金は趣旨に賛同した企業からの出資を原資とする。出資企業はプロジェクトが終了に近づいて技術移転の準備に入るまで、特定のコンセプトグループについて自社が唾をつけたと主張することはできない。

知財は研究所が所有し、アウトプット(データ、アルゴリズム、設計図等)を出資企業で実用化する場合、研究所からライセンスする。それが研究所の収入+他の出資企業への配当金となる。出資していない企業もプレミアを上乗せすればライセンスを受けることができる。 つまり、必ずしも自社が目をつけたコンセプトが実用化されなくても配当金が出る。実際にはこの配当金は研究所にプールされて当座の運転資金となる※。

空想じみたプロジェクトばかりになると研究所は配当が出せずに自主財源に困るため、研究員の遊び場と化すことにブレーキがかかる。逆に、非常に実用に近いプロジェクトは参加企業が自社で行ったほうが得策なので、ある程度長期の未来志向の研究が集まる。

※配当というシステムを導入せず、ライセンス収入をすべて研究所で内部留保できる場合、研究所は100%自主財源で運営される独立した機関を目指すかもしれない。出資企業に配当されるべき資金で運営される限り、企業群の共同研究所という性格は維持されるが、一部の出資企業が資金の引き上げを決めて配当の払い戻しを求めると急に財源が悪化するのが問題点である。

2.構成員の集め方

基本的に情報処理推進機構の未踏ソフトウェア創造事業と似ているが、以下の点が異 なる。

  • 研究テーマではなく未来の商品・サービスのコンセプトを募集し、アドバイザーが審査する。
  • アドバイザーはプロジェクトマネージャーではない。コンセプトを提案してきた本人(コンセプター)がプロジェクトマネージャーとなり、最終的な意思決定の権限と責任を持つ。
  • コンセプターは研究者・技術者でなくても良いが、コンセプトを実現するための要素技術担当の研究員を集めてリードする能力が必要である。
  • アドバイザーはコンセプトの実現可能性を吟味する技術担当アドバイザー(主に情報通信系の大学教授等を想定)と、商品コンセプトが世の中に与えるインパクトを評価できる、商品性評価担当アドバイザー(実績のあるクリエイターを想定)のペアとする。
  • アドバイザーをペアにすることで、アドバイザーが自分の弟子の当座のポストを確保するために制度を利用することを防げる。研究所の規模によるが、アドバイザーペアを複数ラインナップし、1つのアドバイザーペアが2~3種類のコンセプトを預かる。
  • 審査に通ったコンセプトについて要素技術を吟味し、コンセプターが要素技術担当研究員を公募採用し、研究グループを構成する。
  • 多忙なアドバイザーに代わって研究開発の現場の進捗管理を依頼するため、コンセプターは製品開発コンサルタントを公募・契約する。
  • コンセプト提唱者、アドバイザーの任期は5年を2期である。要素技術担当研究員の任期は担当する要素技術の内容による。

3.研究開発の流れ

コンセプト募集から1年後にスタートし、スタートから4年後に中間報告を行う。8年目から企業向けに技術移転の段階に入る。10年でプロジェクトを終了する。研究所は5年ごとに新コンセプトを募集し、新しいプロジェクトを立ち上げる。
コンセプト提唱者は技術担当アドバイザーの助言を受けて、コンセプト実現のための技術要素をリスト化する。この技術要素リストは半期ごとに見直し、必要な研究担当者を公募して補充する。進捗管理の実務はコンサルタントが担当する。
これにより、プロジェクト終了時には、必要な技術要素の大半に実現のめどがつき、それぞれの要素技術の専門家を抱えた商品開発グループが出来上がる。この集団は、ベンチャーとして起業するか、事業化を希望する企業の開発部隊のコアとして移籍する。つまり、この研究プロジェクトは、コンセプト提唱者をベンチャーまたは実用化を希望する企業の製品開発リーダーとして養成する課程であるとも言える。

4.権限および責任

本提案における研究開発グループにはコンセプター、アドバイザー2名、コンサルタントがいるため、「船頭多くして…」という事態になるリスクがある。このため、未踏プロジェクトではプロジェクトマネージャーの立場にあった人を本提案ではアドバイザーの位置にとどめ、コンサルタントは進捗管理が仕事でコンセプトに口出ししない、という職務分担を明確化する。

  • コンセプト修正の責任は、コンセプト提唱者が負う。これは、大勢の意見の中間を取った場合、焦点がぼけてコンセプトがだめになることが多いからである。
  • 補充する要素開発研究員の採用は、コンセプト提唱者が責任を負う。
  • 研究要素のリストアップについて、研究的側面からは研究担当アドバイザーが、企業での技術開発の側面(既存の生産技術で対応可能かの判断等)からコンサルタントがコンセプト提唱者にアドバイスする。
  • 進捗状況が曖昧になるのを防ぐため、コンサルタントが進捗状況のチェックを行う。
  • 中間評価は出資する企業の研究開発部門・商品開発部門の人間からなる評価委員会が行う。基本的にアドバイザーもコンサルタントも研究開発グループの当事者であり、評価する側とは切り離す必要がある。

5.大学との共同研究との比較

企業と大学との共同研究では教授が進めたい学術的な側面と、企業が求める成果との間にギャップがある。また、実際に研究するのは経験の浅い修士課程の学生であることが多く、企業が期待した成果が得られないことも多い。
また、独立行政法人化によって国公立大学の大雑把に話を進められる雰囲気が失われて教官が書類手続きや会議で忙殺されていることと、助手や技官の削減および少子化による定員減によって日本の大学の研究レベルは今後低下していく可能性が高い。
本研究所構想は、ドクターを取得した程度の研究者で構成される大学の研究室によく似たグループが、非常に具体的な未来商品・サービス像に向かって10年程度集中的に研究するため、学生の教育に追われる大学の研究室よりレベルが高くなることが期待できる。

6.まとめ

大学/公的研究機関発のベンチャーのように、研究成果を実用化するために研究員にベンチャーを立ち上げるように求めても、その会社が事業を拡大していくことは難しい。(多くの研究員は、研究に集中できる環境を希望しており、ベンチャーの社長になりたいのではない。)

本研究所構想は、実用化したいコンセプトを持った人間が製品化可能性を吟味しながら必要な技術をもった人を集め、10年後に事業化の入り口に立てるように複数の会社が出資という形でサポートする仕組みを研究所運営のシステムに盛り込んだのが特徴である。

これにより、企業の研究開発が直面する問題

  • 研究員が研究をやりっ放しで誰も成果を実用化しない。
  • 研究テーマが自社の既存の事業モデルに縛られる。
  • 実用化のために付随して必要になる研究をする人がいない。
  • 10年以上の先を見越したリスクの高い研究開発の費用負担が重い。
  • 短期の研究開発を続けると、主力事業が成熟したときに会社が行き詰る。
  • 多くの技術ベンチャーが資金難または借入金の返済負担で実用化前につぶれる。
  • 大学との共同研究の質を保つために研究所の人的リソースが食われる。
  • 必要な人材を、研究リーダーが自分の権限で確保できない。
  • 研究開発の評価がお手盛りになりがちである。

を回避しつつ研究成果の商用展開の可能性を高めることができる。
以上。

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最終更新時刻2007 年 10 月 23 日,09:50 PM